Peanuts FAQ: 4. 登場人物 (19) サリーのコトバの勘違い
原著者: デリック・バング(Derrick Bang)
和訳:PFJW(Peanuts FAQ Japanese Workshop)
4.19) サリーの学校でのこっけいなコトバの勘違いと言い間違い
(訳: Charn)
※(訳者より)この節は訳のみではニュアンスが伝わりにくいため,できる限り訳注をつけました。訳注が間違っているようでしたらお知らせください。
シュルツ氏の数多くの繰り返されるギャグの中でも,サリーのはちゃめちゃな英語の使い方は最も面白いネタの 1 つといえます。
5 人の子供を育ててきたシュルツ氏ですから,ギャグ・ネタのいくつか,あるいはすべてが,子供達を見ていて生まれたと考えてもいいでしょう。あるいは,ただ単に言葉遊びに長けていただけだと言うことかも知れません。もとネタがなんであれ,これらのコミックの多くが新聞に載り,そこで何年も,いや,何十年も生き残っています。
この手のギャグを最初に発したのは,実はルーシーだったのです。「私のお気に入りの曲はアジア・マイナーのバッハのトッカータとフーガよ。[注1]」(1956年3 月15日)や,「1リブは16オズって知ってた?[注2]」(1966年3月10日)などです。しかし,これらのコンセプトが実際に熱狂的な支持を得始めたのは,サリーが学校に入学したときです。(サリーは幼稚園時代は明らかに何の事件も起こさずに過ごしたのでおそらく小学校 1 年生の時です。)
[注1]原文は "My favorite piece is Bach's Toccata and Fugue in Asia Minor." 「アジア・マイナー (Asia Minor: 小アジア) 」と 「A マイナー (A Minor: イ短調)」 の勘違い。
[注2] 原文は "Did you know there are sixteen ozzes in a lib?" "lb."は「ポンド (pound)」の意で,アメリカで現在も使われているラテン語起源の量計表記。"oz" は「オンス (ounce)」を表す(16オンス=1ポンド)。読む時も本来なら 「パウンド」「アウンス」と発音されるが,ルーシーは (Women's)"Lib"「女性解放運動」 からの連想のためか "lb"を "lib"と思い込み,これと"oz"をそのままの読み方で読んでしまった。
下のリストは私が作りうる最も確実なものです。(もし見落としているものがあったら知らせてください!)
- 「靴下は注意深く煙突の側にぶら下げられました。ジャック・ニクラウス (Jack Nicklaus) がすぐにそこにやってくることを願って」(1968年12月11日)
ジャック・ニクラウス (Jack Nicklaus) はプロ・ゴルファー。サンタ・クロース (Santa Claus)との言い間違い。 - 「アブラハム・リンカーン (Abraham Lincoln) は16代目の王様で,ロト(Lot)の奥さんのお父さんです。」(1970年2月12日)
「アブラハム・リンカーン」は米国第16代大統領。「ロト」は創世記に記されているアブラハムの甥。 - 「君はどうして水槽を買うことにしたんだい?」(とチャーリー・ブラウンに尋ねられて)「タイムリーだからよ。知らないの? 今は水槽の時代なのよ。」(1970年5月11日)
水槽(aquarium) と,みずがめ座(Aquarius) との混合。 - (コロンブス・デイのレポートで)「コロンブス・デイはとても勇敢な男でした。彼は世界中を航海したいと願っていました。『3そうの船をあげますよ,デイさん (Mr. Day) 』,と女王が言いました。」 (1970年10月12日)
「コロンブス米大陸到達記念日(Columbus Day: 10月12日)」を人名と勘違い。 - 「ニニんがニィニィ,サザんがサンザン,シシ孫々」(1970年11月2日)
(音声によることばの勘違いのため,実際には和訳不能。ここでは敢えて,原文の雰囲気を活かすように工夫して訳とした。下記の原文参照。)
"Two times two is tooty-two; three times three is threety-three; four times four is four-forty-four." - 「私はケン(Ken)とアベル(Abel)についてのレポートを書かなきゃいけないの。旧約聖書をずっと見て,アベルは見つけたんだけど,ケンは見つからないの。間違った訳の聖書を使ってるのかしら? 」(1971年4月24日)
カイン(Cain /ケイン): アダム(Adam)とイブ(Eve)の長男で,弟アベル(Abel /エイブル)を殺した(創世記 4.1-8)。サリーはこの「カイン(ケイン)」 を 「ケン(Ken)」 だと思い込んでいた? - (美術館での校外学習のときに)「多分ラモーナ・リザ(Ramona Lisa)を見に行くのよ」(1971年5月7日)
「ラモーナ・リザ (Ramona Lisa)」は,「モナ・リザ(Mona Lisa)」との勘違い。ラモーナ Ramona は比較的一般的な女性名。 - 「私は石器時代の穴居人についてお話を書いてるの。彼らはキャンプ・ファイヤーの周りに座ってるの,すると突然巨大なシソーラスに襲われるの!」(1971年6月22日)
「シソーラス」(thesaurus: 類語辞典)。恐竜の多くは名前が -saurus (・・サウルス)で終わっている。 - (エジプト人についての歴史のレポートで)「エジプト人の家庭生活は今日よりも簡単でした。彼らはすべて同じ方向を向いていました。」(1972年1月3日)
古代エジプト絵画では正面向きの絵がなく,みな同じ方向を向いている。 - 「インカ族とはインカ島に昔住んでいた人々のことです。彼らは高い文明を持っていました。今日でもここに存在し得たのですが宿箔施設が十分にありませんでした。」(1972年3月12日)
インカ (Inca) 帝国はもともと南アメリカに存在。インカランド(Incaland) は,サリーの造語。 - 「羊飼いがラムを育ててくれるから,私たちラム・チョップ(lambchops)が食べられます。彼らはまた羊も育てていますので,シープ・チョップ(sheepchops)も食べられます。」(1972年4月19日)
チャップ(chop)はあばら骨付き肉のこと。ラム(小羊:lamb)のチョップがあるのならシープ(羊:sheep)にもチョップがあるだろうというサリーの発想。(ポーク・チョップ,ラム・チョップは実際にある。) - 「これはメロンについてのレポートです。メロンは5月15日から 6月5日までに植えなければいけません。もしその期間,たまたま町を離れていたらどうなるのかはわかりません。」(1972年5月3日)
- 私たちの野生生物と樹木は,勇敢で献身的な人たちに守られています。これらの人たちは塔に住んでおり,フォレスト・ストレンジャーズと呼ばれています。」(1972年9 月29日)
フォレスト・レンジャー(forest ranger:森林監視人)が正解。ストレンジャー(stranger) は「あかの他人」。 - 「ぶどうボートがアーバー(棚)に入港してくるなんて,何てワクワクすることなんでしょうってお話を書こうかしら。」(1972 年 10 月 26 日)
ぶどう棚:grape arbor; ハーバー(harbor:港)に引っ掛けている? - 「これまでいたなかでもっとも大きい恐竜はブランカイティス(Bronchitis)です。それはすぐに絶滅しました。咳をたくさんしたからです。」(1972年12月11日)
bronchitis:気管支炎。 ブロントサウルス(Brontosaurus) との勘違い。 - 「10ミリグラムは1センチグラムと同じ。10デシグラムは1グラムと同じ。10グラムは1グランパ (grampa) と同じ。」(1972年12月13日)
グランパ(grampa)は「祖父」の意。 - 「彼はとてもお金持ちなカウボーイでした。車を1台,馬も1頭持っていました。車はカーポートに置いてあり,馬はホースポートに置いてありました。」(1973年3月21日)
カーポート (carport) は「車庫」。ホースポート (*horseport) はサリーの造語。 - 「蝶々は自由です。それがどういう意味かですって? つまり欲しいだけとってもいいっていう意味です。」(1973年5月4日)
'free' には 「自由な」と「無料の」 の両方の意味がある。 - 「作文のテーマ: 今日の問題としてのヴァンダリズム(Vandalism)すなわち芸術文化破壊。この破壊者達を操っているのは誰か?教えてあげましょう。彼らはエヴァンダリスト(Evandalists) にのせられているのです。」(1973年5月7日)
エヴァンジェリスト(evangelist:福音伝道者・巡回説教者)との混同。 - 「これは雨についてのレポートです。雨は蛇口から出てくる水とは違います。嵐の後,雨は排水路を流れます。私の教育と似たようなものだと思うときがあります。」(1973年11月7日)
- (古代ギリシャについての歴史のレポート)「古代ギリシャはその時代の先端でした。私たちの時代より先にありました。テレビがありませんでしたが,たくさんの哲学者がいました。私は個人的には,哲学者を見ながら一晩中座っていたくはありません」(1974年5月1日)
- 「フランスの歴史:リッシャリューウーウー卿(Cardinal Rishhalleouoooo)についてのレポート。」(1975年2月6日
リシュリュー(Richelieu): フランス・貴族出身の名宰相で,王権の絶対化に貢献,ハプスブルク家打倒に全力を注いだ。 - 「今日はワシントンの誕生日のお祝いをします。実は彼の本当の誕生日は今度の土曜日です。つまり彼はプレゼントを開けるのを待ちきれなかったのです。」(1975 年 2 月 17 日)
初代大統領ジョージ・ワシントン (George Washington) の誕生日は2月22 日。なお 1971年から,ニクソン大統領により,すべての歴代大統領を祝福する日が制定され,2月の第3月曜日が大統領の日(Presidents' Day)となった。 - 「教会の歴史について書くときは,本当に最初に遡らなければいけません。私たちの牧師さんは,1930年に生まれました。」(1975 年 9 月 4 日)
- 「私は神学のコースを取るつもりです。私は宗教についてすべてを学びたいのです。モーゼと,セント・ポール(St. Paul) とミネアポリスについても学びたいと思います。」(1975年9月3日)
セント・ポール(St. Paul)は,ここでは本来なら聖パウロのことだが,サリーは,ミネアポリス(Mineapolis)との双子都市であるセント・ポールと混同している。なお,セント・ポールはシュルツ氏の生まれ育った町でもある。 - 「過去の分詞のことなど私の知ったことではありません。全然関心がないのです。それより,今日の分詞を問題にすべきじゃないんですか?」(1976年2月17日)
過去分詞 (past participle)及び 現在分詞(present participle)の勘違い。 - 「光は 1 秒間に186,000マイル進みます。だったらなぜ午後がこんなに長いのでしょう?」(1976 年 6 月 1 日)
- 「右利きの人もいれば左利きの人もいます。両方の腕を同じくらい使える人もいます。そういう人たちは左右両手利きといいます。」(1976年10月17日)
左右両手利き(hand(手 )-bi(2つの)-dextrous(器用な))はサリーの造語。 - 「文学に関する問題: マーク・トウェイン (Mark Twain) はいつ 『トム・ソーヤーの冒険(The Adventure of Tom Sawyer)』 を書いたか。私が知る限りでは多分夜です。」(1978年4月6日)
- 「ダビデ王はどこで詩篇を書いたのか? 椰子の木の下です。」(1978年4月13日)
"psalm" (詩篇 /サーム/)と "palm"(椰子 /パーム/)を,綴りの類似からともに /パーム/ と発音すると思い込んだところからきたと思われる勘違い。 - 「ウォルター・スコット卿 (Sir Walter Scott) の有名な小説はアイヴァンホーホーホーです。」(1978年4月19日)
本当は『アイヴァンホー (Ivanhoe) 』。サリーは語尾を増やすのが好きなのか? - 「アッシリアのティグラトハ=ピレセル王 (Tiglath-Pileser of Assyria) は多くの国を征服し,戦利品を持ち去りました。それで赤ちゃん達にはアンヨに履くおクツが無くなってしまいました。」(1978年9月8日)
戦利品・略奪品(booty)と,くつ(boot) の赤ちゃん言葉(bootie) との混同。 - 「学校に持っていくお話を書いてるの。サンタクロースと雨のギア (rain gear) についてよ。」(1978年12月18日)
"reindeer"(トナカイ)は /レインディア/ と発音。 - 「これはピーター・ラビットと彼のいろんな色の毛並みについての古いお話です。」(本のレポートを始めるにあたって,という設定で)...そして後の方のコマで,「明日まで待って。そうしたらまた別のお話をしてあげるから。フクロウと口うるさい猫 『The Owl and the Fussy Cat』 のお話よ。」(1979年9月23日)
まず,サリーは二つの話を混同している。ひとつは,ビアトリクス・ポター (Beatrix Potter) 作・絵 『 ピーターラビットのおはなし(The Tale of Peter Rabbit ) 』 。この中で,マグレガーさんの庭に入りこんで野菜を食べていたピーターが,追われて逃げるときに青い上着を無くしてしまう。
もうひとつは旧約聖書のヨセフ物語。この中で,ヤコブ(Jacob) が,溺愛していた息子のヨセフ(Joseph) にだけ晴れ着を買い与え,他の兄弟からヨセフが憎しみを買う結果になる。サリ ーは,この2つの上着/晴れ着にまつわる話を混同したと思われる。
またサリーは,その次のタイトルも勘違いしている。原題は 『ふくろうと子猫 (The Owl and the Pussy Cat)』,エドワード・リア(Edward Lear)作。 - 「牝牛の絵をかいてるの。でも,メスのひづめって難しいわね。」(1980年9月10日)
「メスのひづめ (*hoofseses)」はサリーの造語。「メス」牛 (cow) にあわせて, ひづめ (hoof) を無理やり(?)女性形 (hoofses) に変形し,さらに複数形-esをつけた。 - 「海は大洋になりたがっている水の団体です。」(1981年1月21日)
- 「これは私のハレー氏のコンマ (Halley's Comma) についてのレポートです。それは有名なコンマです。彼はおそらく家にたくさん手紙を書いたのでしょう。」(1981年3月6日)
ハレー彗星(Halley's Comet)を勘違いしている。 - 「世界には7つ大陸があります。アフリカ,アジア,オーストラリア,ヨーロッパ,北アメリカ,南アメリカ,そしてアークティカおばさんです。」(1981年5月25日)
「アンタークティック」(Antarctic:南極)を 「アーント・アークティカ」(Aunt Arctica) 」と勘違いしたと思われる。 - 「イギリスはローマン・ニューメラルズに43年に侵略されました。」(1984年10月 6日)
「ローマ数字」(Roman Numerals /ローマン・ニューメラルズ)と,「ローマの将軍」(Roman Generals /ローマン・ジェネラルズ)の言い間違い?なお,セリフの内容は,A.D. 43 年にローマの 4 つの軍団がアウルス・プラウティウスの指揮のもとで,ブリテン (グレート・ブリテン島,現在のイギリス) に侵攻した事件を指している。 - 「その農夫は大きな家と大きな赤い小屋を持っていました。その小屋の裏でその農夫は牧師を飼っていました。」(1985年3月20日)
"pastor"(牧師/パスター)と "pasture"「牧場・牧草地/パスチャ/」の勘違い。「牧場を持っていた」 と言いたかった? - 「彼は尊大なカウボーイでした。もったいぶった草にしか乗らなかったほどです。」(1985年7月12日)
"pompous"「もったいぶった(/パンポウス/)」 と,"pampas"「南米の草原(/パンパス)」の勘違い。 - 「レクリエーション・ルームには大きなれんがの暖炉がありました。壁は生意気な松材で出来ていました。」(1986年8月20日)
'naughty'「生意気な ( /ノーティ/ ) 」と,'knotty' 「節目の多い( /ノッティ/ ) 」との言い間違い。 - (読書レポートの始めに)「ローレル・ N ・ハーディ作『ダーバーヴィル家のテス』」(Tess of the d'Urbervilles by Laural N. Hardy)(1988 年 9 月 4 日)
トーマス・ハーディ(Thomas N. Hardy) 著『ダーバーヴィル家のテス』(Tess of The D'Uurbervilles ) の原作を,かなり昔(1920〜 30 年代中心)に活躍した米国の喜劇俳優のでこぼこコンビ「ローレル・アンド・ハーディ(Laurel and Hardy)」 の作品と勘違いしている。なお"and" は口語表現の表記として,しばしば "N"と英語では表記される。 - (暗記した聖書の詩篇について)「多分モーゼが言ったことか,再評価の本(The Book of Reevaluation)からの何かね。」(1999年6月18日)
The Book of Revelation『ヨハネの黙示録』 との勘違い。
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